9条俳句事件判決(弁護士 谷川 生子)

 

公民館だよりへの俳句掲載を拒否された女性が、さいたま市を相手に俳句の掲載と慰謝料の支払を求めて提訴した事件について、昨年の10月13日にさいたま地方裁判所の第一審判決、今年の5月18日に東京高等裁判所の控訴審判決が出ました。
いずれも、さいたま市の俳句掲載拒否は違法であるとして、原告の慰謝料請求を認めています。
それに対し、原告には掲載請求権がないとして、俳句の掲載請求は退けられました。

第一審判決は、公民館が3年8ヶ月の間継続して公民館だよりに俳句を掲載してきたことを重視し、原告の掲載への期待を法的保護に値する人格的利益であるとし、また、原告の思想や信条を理由に公民館職員が不公正な取り扱いをした行為は国家賠償法上違法であるとして、原告に5万円の慰謝料を認めました。この第一審判決を不服としたさいたま市は東京高等裁判所に控訴し、原告もまた俳句の掲載等を求めて控訴しました。

控訴審判決は、公民館は住民の教養の向上、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とする公的な場である、として公民館の役割に言及し、公民館職員はこの役割を果たせるように、住民の社会教育活動の実現につき公正に取り扱うべき義務を負う、と明示しました。本件俳句の掲載により行政の公平性・公正性を害するとの被告の主張に対しては、意見の対立があることを理由に公民館が、意見を含む住民の学習成果をすべて掲載から排除することは、意見を含まない他の住民の学習成果の発表行為と比較して不公正な取り扱いとして許されないと断言しています。

いずれの判決も、「大人の」学習権を憲法上の権利として認めていますが、控訴審判決の方が公民館の性質等に踏み込んで判断している点で意義あるものと言えます。現在、上告及び上告受理申立がなされ、最高裁判所の決定が待たれるところです。

弁護士 谷川 生子

 

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