首都圏建設アスベスト東京高裁判決・平成30年3月14日

1、判決の内容

⑴ 平成30年3月14日、東京高等裁判所第10民事部(大段享裁判長)は、首都圏建設アスベスト(東京)訴訟(原告354名)において、国の責任を認め、原告のうち327名に対し総額22億8147万6351円の支払いを命じる原告勝訴の判決を言い渡しました。

首都圏建設アスベスト訴訟とは、建築作業に従事した結果、石綿(=アスベスト)関連疾患に罹患した建設作業従事者が、アスベストの危険性を認識していながら、アスベストの使用を規制せず、積極的に使用させ続けた国と、アスベストが含まれた危険な石綿含有建材を製造し続けたメーカー42社に対し、一患者当たり3850万円(弁護士費用含む)の損害賠償を求めている訴訟です。

全国の裁判所で同種訴訟が提起されています。本件の首都圏建設アスベスト訴訟が最初に東京地方裁判所に提起されたのは平成20年5月16日であり、今回の控訴審判決は、第1審の東京地方裁判所判決を経て、提訴から約10年が経過して判断されたものです。

この控訴審の判決によって救済された原告数、認容総額は、第1審の東京地方裁判所の判決に比較して、ともに2倍以上に増えました。

⑵ 判決は、従来の最高裁判決等において示された、労働者の生命・健康の確保を目的とする労働関係法令に基づく規制権限は「適時にかつ適切に」行使されなければならないとの判断基準に基づき、国が規制権限の行使を怠ったことは著しく不合理であり、国賠法1条1項の適用上違法であると判示しました。

この判決は第1審の東京地方裁判所の判決よりも違法時期を6年早めることにより被災者の救済範囲を広げています。

さらに判決は、一人親方等に対する国の国家賠償責任をはじめて認めました。

一人親方とは、建設業などで会社に雇用されず、労働者も雇用せずに、自分自身で事業を行う事業主のことをいいますが、これまでの東京地方裁判所を含む同種事件の一連の判決は、一人親方については、国が責任を負う根拠となる法令の対象外であるとして救済しませんでした。

しかし、本判決は、同じ現場で同じように働いていた労働者と一人親方等を区別せず、一人親方のみならず、自ら建築作業に従事する中小事業主をも救済しており、極めて画期的な判決と高く評価できるものです。

⑶ 一方、判決は、建材メーカーらの共同不法行為を認めませんでした。

建材メーカーらは、長年にわたってアスベストの危険を警告する表示すらせず石綿建材の製造・販売を続けてきたのであり、その結果原告ら建築作業従事者に甚大な被害を与えてきたことは明らかです。

この判断は、建材メーカーらの加害行為の重大性を看過したものであり、損害の公平な分担という共同不法行為の趣旨を無視した極めて不当な判断です。

2、被害救済制度の創設にむけて

⑴ 本判決により、同種訴訟において、国は8連敗したことになり、国の責任は不動のものとなりました。

国が無用な争いを続けることはもはや許されることではありません。原告の7割が死亡している現状を踏まえ、国は、速やかに原告らに謝罪するとともに、本件の早期全面解決に踏み出すべきです。

アスベスト関連疾患による労災認定者数は毎年1000名を超え、建設業が過半数を占めています。そして、石綿関連疾患に罹患した被害者が、生きているうちに救済されるためには、国と無用な裁判をしている時間などありません。

原告及びすべての建設アスベスト被害者を救済するためには、「建設アスベスト被害者補償基金」を創設するほかなく、そのためにも国は速やかに原告らとの協議のテーブルに着くことを決断すべきです。

そして、建材メーカーらも、早期全面解決の立場に立ち、速やかに基金制度創設に同意するとともに国に積極的に働きかけるべきです。

⑵ 国は本判決を不当とし、最高裁判所に上告しました。残念ながら、裁判はまだ続いていきます。

僕も、首都圏建設アスベスト弁護団の一員として、今後も、アスベスト被害者の救済と被害の根絶のため、尽力いたします。

弁護士 竹内 和正

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