【判決速報】貧困ビジネスの違法性を認め、総額約1580万円の損害賠償等を命じる(2017年3月1日 さいたま地裁)

生活に困窮した人を施設(無料低額宿泊所)に入所させ、生活保護を申請させて、入所者に劣悪なサービスしか提供せず、生活保護費の大半を搾取して不当な利益を得ていた貧困ビジネス業者に対し、本日、さいたま地方裁判所は、「生活保護法の趣旨に反し、その違法性は高い」「最低限度の生活を営む利益を侵害したものとして不法行為が成立する」として、総額約1580万円の損害賠償や支払った利用料の返還を命じる判決を言い渡しました(さいたま地方裁判所第2民事部判決)。

貧困ビジネスについて、生活保護法や社会福祉法の趣旨に反することを正面から認めたものであり、貧困ビジネスの蔓延に歯止めをかける画期的判決であると評価できます。
厳しい状況の中で、この裁判の原告として立ち上がり最後まで闘い抜かれた原告の方の勇気や誠実さに敬意を表します。埼玉のほか、東京、千葉、愛知、京都、大阪など各地で貧困問題に取り組む多くの弁護士の支援、協力により獲得された判決です。

判決の概要は次のとおりです。

1 不当利得返還請求
原告A及びBと被告との間の住居・生活サービス契約は、公序良俗に反し無効であるとし、被告に対し、施設利用料の返還を命じた。
以下、理由の一部を抜粋
「被告は、原告らから生活保護費を全額徴収しながら、原告らに対して、生活保護法に定める健康で文化的な最低限度の生活に満たないサービスしか提供せず、その差額をすべて取得していたのであり、かかる被告の行為は、生活保護法の趣旨に反し、その違法性は高いというべきである。」
「被告の本件事業は、生活保護費から利益を得ることを目的とし、路上生活者らを多数勧誘して被告寮に入居させ、生活保護を受給させた上でこれを全額徴収し、入居者らには生活保護基準に満たない劣悪なサービスを提供するのみで、その差額を収受して不当な利益を得ていたものであり、かかる事業の一環として原告らと被告との間で締結された本件契約は、単に対価とサービスの均衡を欠くばかりか、上記のとおり生活保護法の趣旨に反して、原告らを生活保護基準に満たない劣悪な環境に置くものであるほか、利用者の人権擁護の必要性から、第1種社会福祉事業についてその経営主体を原則として国、地方公共団体又は社会福祉法人とし、それ以外の者が経営する場合には都道府県知事等の許可にかからしめた社会福祉法の趣旨にも反し、原告らが生活に困窮していた状況に乗じて締結させたことなどその経緯や態様等に照らして、公序良俗に反し、無効というべきである。」

2 不法行為による慰謝料
生活状況、入居期間その他一切の事情を勘案し、被告に対し、慰謝料の支払いを命じた。
以下、理由の一部を抜粋
「上記のとおり、原告らは、被告により、その事業の一環として本件契約を締結させられ、上記認定のような生活保護基準を下回る劣悪な環境で生活することを余儀なくされていたものであり、被告については、原告らの最低限度の生活を営む利益を侵害したものとして不法行為が成立するというべきであり、原告らが主張する各人権は、実質的に同利益に含まれるものとして考慮することが相当である。」

3 安全配慮義務違反
仕事をさせられ、中指切断の障害を負った入所者につき、障害慰謝料、逸失利益、後遺症慰謝料等の賠償を命じた。
以下、理由の一部を抜粋
「被告は、…原告Bに対し、…切断機を用いて電線を切断したり、電線の外側のビニールを剥ぐなどの作業をするように指示していたのであるから、原告Bとの間で特別な社会的接触の関係に入ったものとして、信義則上、原告Bに対しその生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負うところ……、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。」

(弁護士 猪股 正)

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