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障害を理由とする差別を解消し、聴覚障害者の傍聴の権利を保障するため、手話通訳の配置等を求める申入書

障害を理由とする差別を解消し、聴覚障害者の傍聴の権利を保障するため、手話通訳の配置等を求める申入書

埼玉の生活保護基準引下げ違憲訴訟弁護団は、2017年1月19日、2016年4月1日に施行された「障害者差別解消法」から相当期間が経過することから、さいたま地方裁判所の事件係属部に、手話通訳者2名による手話通訳を、裁判所の手配・費用負担により実施されることなどを再度申し入れました。

               申 入 書

                    2017年(平成29年)1月19日

さいたま地方裁判所第4民事部合議係 御中

        原告ら訴訟代理人弁護士   中   山   福   二

        同             猪   股       正

        同             古   城   英   俊
                               外15名

第1 申入れの趣旨
   従前、2015年(平成27年)2月6日付け申入書及び2016年(平成28年)3月30日付け申入書において、同様の申入れをいたしましたが、2016年(平成28年)4月1日から「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行され、すでに相当期間が経過していること等を踏まえ、障害に基づく差別を解消し、聴覚障害者の傍聴の権利を保障するため、本件訴訟の次回期日以降、手話通訳者2名による手話通訳を、裁判所の手配・費用負担により実施されることを再度申し入れます。
   また、次回期日において、傍聴を希望される聴覚障害者が、「現に社会的障壁の除去を必要として」おり手話通訳者の配置を求める旨の「意思の表明」(「裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」別紙留意事項第5項参照)を行う場合の具体的な方法について配慮すべき事項がありましたら、ご教示ください。

第2 申入れの理由
1 はじめに
御庁のおかれては、本件訴訟において、これまで、手話通訳者2名の配置等を許可いただき、聴覚障害者の傍聴の権利の保障について、一定のご配慮をいただいたことに感謝申し上げます。
2015年(平成27年)2月6日付け申入書及び2016年(平成28年)3月30日付け申入書において、裁判所において2名の手話通訳者を選任いただきたい旨申入れたところですが、2016年(平成28年4月1日に、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)が施行され相当期間が経過したこと等から、再度、あらためて、手話通訳を裁判所の費用負担により実施されることを申し入れいたします。以下、理由を述べます。
2 前回の口頭弁論期日において発生した聴覚障害者の具体的不利益
   前回2016年(平成28年)10月19日の第8回期日においても、聴覚障害者の方が本件訴訟の審理を傍聴された。
   期日に先立ち、原告支援団体において手話通訳者の手配に尽力したものの結局、廷内手話通訳者2名の配置ができなかった。
   その結果、期日当日、入廷された聴覚障害者の方が、裁判の内容を十分に理解できないという具体的な不利益を被るという事態が生じた。
3 障害者差別解消法の施行
 ⑴ 障害者差別解消法制定の経緯
  ア 障害者権利条約-合理的配慮の提供確保等
    障害者権利条約が、2006年(平成18年)12月13日に国連総会において採択された。
    障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする(同条約1条)。
    障害者権利条約は、「『障害に基づく差別』とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会
的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。」「障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」とし、「『合理的配慮』とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義している(同2条)。その上で、締約国の一般的義務として、「障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するための全ての適当な措置(立法を含む。)をとること。」や「公の当局及び機関がこの条約に従って行動することを確保すること。」などを規定し(同4条)、「締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。」(同5条3項)としている。
 また、手話については、「言語」であると定義され(同2条)、障害者の表現及び意見の自由並びに情報の利用の機関を確保するため、公的な活動において、手話…を用いることを受け入れ、及び容易にすること」を締約国に求めている(同21条)。
 日本は、2007年(平成19年)9月にこの条約に署名し、その後、障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定等、国内法の整備等を進めた後、2014年(平成26年)1月20日、障害者権利条約を批准した。
  イ 障害者基本法の改正
    障害者権利条約の趣旨を踏まえ、2011年(平成23年)、障害者基本法が改正され、社会的障壁について、「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義され(同法2条2号)、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」とされ(同法4条1項)、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。」ことが規定された(同条2項)。
    また、手話については、「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。」が規定され(同法3条3項)、情報の利用におけるバリアフリー化等のため、「国及び地方公共団体は、障害者が円滑に情報を取得し及び利用し、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるようにするため、…障害者の意思疎通を仲介する者の養成及び派遣等が図られるよう必要な施策を講じなければならない。」(同法22条1項)とされ、情報の取得・利用等におけるバリアフリー化のため、国等に対し、手話通訳者の配置等が図られるよう必要な施策の実施を求めている。
  ウ 障害者差別解消法の制定と施行
    上記の障害者基本法の差別禁止の基本原則を具体化するものとして、障害者差別解消法が、2013年(平成25年)6月に制定され、2016年(平成28年)4月1日から施行されている。
 ⑵ 障害者差別解消法の内容
  ア 国等の義務-差別解消のための施策の策定・実施
    障害者差別解消法は、「障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする」(同法1条)。
    「国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない」(同法3条)とし、差別解消のための施策の策定・実施を、国等の義務としている。
  イ 行政機関等の義務-合理的配慮の提供義務、対応要領の策定等
    その上で、障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定し、行政機関等及び事業者に対し、差別の解消に向けた具体的取組を求め(同法5条、第3章)、障害者権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、行政機関等に対し、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が加重でないときに、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めている(同法7条2項、8条2項)。
特に、行政機関等においては、その公共性に鑑み、障害者差別の解消に率先して取り組む主体として、不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供を法的義務とし(同法7条)、国等の職員による取組を確実なものとするため、対応要領を定めることとしている(同法9条)。
  ウ 合理的配慮としての手話によるコミュニケーション
    同法6条1項に基づき政府が定めた「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)は、上記の合理的配慮及び加重な負担に関する基本的な考え方を示している。
基本方針は、「合理的配慮は、行政機関等…の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること」に留意する必要があるとしている。また、基本方針は、加重負担に関する考慮要素として「実現可能性の程度」「費用・負担の程度」などを挙げ、これらを考慮し、「代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされるものである」としている。
その上で、合理的配慮の「現時点における一例として」、「手話などによるコミュニケーション」を挙げている。
なお、基本方針は、「障害者からの意思表明のみでなく、…介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。」とし、また、「加重な負担にあたると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。」としている。
4 障害者差別解消法と裁判所-自律的に必要な措置を講じることが求められていること
 ⑴ 三権分立と裁判所の義務
   確かに、障害者差別解消法のうち、差別の解消に向けた具体的取組を求める第3章の規定は、裁判所を対象機関に含めていない。これは、裁判所及び国会は、三権分立の観点から、それぞれ実態に即して自律的に必要な措置を講じることとすることが適当であるためである。
   しかし、裁判所も、国の機関として、同法の一般的義務の対象から除外されるものではない(平成25年6月 内閣府障害者施策担当「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律Q&A」参照)。
   したがって、裁判所においても、障害者権利条約、障害者基本法及び障害者差別解消法の趣旨を踏まえ、差別解消のための合理的配慮を提供するため、自ら必要な具体的な措置を講じる必要がある。
   このような趣旨から、裁判所においても、「裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(平成28年3月23日最高裁判所裁判官会議議決・平成28年4月1日実施。以下「裁判所対応要領」という。)を策定し、裁判所職員に対し、合理的配慮の提供等を義務付け、義務違反や職務懈怠等について懲戒処分等に付されることがあるとして、厳格な対応を求めている。
 ⑵ 傍聴の権利の保障のため手話通訳の実施が不可欠であること等
    傍聴の権利は、裁判の公正・透明性を確保するため、また、知る権利からも要請される極めて重要な憲法上の権利である(憲法82条1項、21条)から、法定秩序維持や訴訟関係人の利益保護の必要性のために必要最低限かつ合理的な場合を除いて、制限されてはならないものである。
    また、聴覚障害者にとっては、適切な手話通訳を受けられて、初めて障害のない人と同等の情報に接することができ、進行している裁判の意味を理解することができ、傍聴の権利が実効あるものとして保障されることになるから、聴覚障害者からの要請があったにもかかわらず、法廷に手話通訳者を配置しないことは、障害を理由とする差別であって、聴覚障害者の傍聴の権利を侵害するものである。
    手話通訳者配置について、その実現可能性、費用・負担の程度等に鑑み、その実施に伴う負担は加重であるとは言えないこと、上記の裁判所対応要領においても、「合理的配慮に当たり得る意思疎通の配慮の具体例」として「手話…などのコミュニケーション手段を用いる」こと、「合理的配慮に当たり得る柔軟な対応の具体例」として「…手話通訳者等がよく見えるように、スクリーン等に近い席を確保する。」ことなどが定められていることから、裁判所においても、障害を理由とする差別を解消するための合理的配慮として、法廷傍聴のための手話通訳実施の措置を講じられるべきである。
    なお、行政機関等については、すでに、埼玉県、さいたま市、大阪府、仙台市、北海道等、全国各地の議会において、議会傍聴のための手話通訳が自治体の費用負担で実施され、手話を日本語と同等の独自の言語と位置付ける「手話言語法」制定を求める意見書が2016年(平成28年)3月3日までに全ての地方議会(1741市町村議会及び47都道府県議会)において採択され、長野県、群馬県、神奈川県、鳥取県、沖縄県など全国各地の自治体において「手話言語条例」が成立し、埼玉県においても、2016年(平成28年)3月25日に「埼玉県手話言語条例」が成立し、同年4月から施行されている。
5 結語
以上の理由により、2016年(平成28年)4月1日から障害者差別解消法が施行されたこと等を踏まえ、障害に基づく差別を解消し、聴覚障害者の傍聴の権利を保障するため、本件訴訟の次回期日以降、手話通訳者2名による手話通訳を裁判所の手配・費用負担により実施されることを再度申し入れます。
また、次回期日において、傍聴を希望される聴覚障害者が、「現に社会的障壁の除去を必要として」おり手話通訳者の配置を求める旨の「意思の表明」(裁判所対応要領第5項参照)を行う場合の具体的な方法について配慮すべき事項がありましたら、ご教示ください。
以 上

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