憲法と人権を考える市民のつどい「なぜ、今『集団的自衛権』なのか」(弁護士 谷川 生子)

埼玉総合法律事務所 谷川生子

平成26年4月9日(水)、埼玉弁護士会主催で集団的自衛権をテーマにした市民集会が開かれました。
昨年12月に開催した「なぜ、今『国防軍』なのか」と題する市民集会の第2弾です。ゲストとして、昨年12月の市民集会にもご参加頂いた、東京新聞論説委員の半田滋氏をお招きし、今回はさらにもう一人、元内閣官房副長官補・柳澤協二氏にもご参加頂きました。

集会の前半は講師二人の講演、後半は当会の弁護士を交えた講師同士の対談という二部構成でした。以下、今回の集会についてご報告します。

1 集会の趣旨

初めに、大倉浩会長から、開会挨拶と、集会の趣旨説明がありました。
政府が国民の議論を待たず、集団的自衛権行使容認に向けた動きを加速させる中、弁護士には国民主権、平和主義について市民に説明する義務があると語り、今回のつどいを通じて、市民の方々に平和の大切さを理解してもらいたいと訴えました。

続いて、佐渡島啓副会長より、「集団的自衛権」、「個別的自衛権」及び「集団安全保障」等の用語に関する解説がありました。
歴史上、集団的自衛権が、アメリカによるベトナム侵攻、旧ソ連によるチェコ侵攻、アフガニスタン侵攻等、大国の他国に対する軍事介入の根拠として利用されてきた事実を指摘した上で、今日の日本にとって、本当に集団的自衛権の行使が必要なのか、安倍首相の唱える「積極的平和主義」の意味するものは何なのか、という問題提起がありました。

2 半田滋氏の講演

半田滋氏は「集団的自衛権のトリック」と題して講演されました。
半田氏は、東京新聞編集局社会部記者を経て2007年から編集委員、2011年からは論説委員を兼務しており、1992年から20年以上にわたり防衛庁及び防衛省を取材し、自衛隊の活動に精通しています。
半田氏からは次のようなお話しがありました。

・日米同盟の崩壊を防ぐため、公海での米艦艇防護を行う必要性があるとの主張があるが、実際に軍事力の違いを顧みず、アメリカに戦争を仕掛ける国があるとは考えられない。
友達が殴られそうになったらこれを守るのは当たり前だ、という考えを植え付けるために、かような例を持ち出しているのではないか。

・(自衛隊の活動風景の画像を示しつつ)人道支援のために派遣されたサマワの基地で、自衛隊員は、日の丸が4枚も貼り付けてある迷彩服を着て活動している。
自衛隊は人道支援なので、武装勢力に殺されないよう、あえて目立つ格好をしている。
対する米兵は、風景に溶け込んで人殺しをしなければならないため、当然迷彩服に星条旗はついていない。
集団的自衛権行使を認めれば、憲法9条の下での自衛隊の活動が、大きく様変わりしてしまう。

・陸上自衛官の自殺者数に注目したい。自衛官の自殺率は、一般公務員の1.5倍、イラクに行った自衛官の自殺率はその10倍である。イラクでは常にロケット砲弾の危機にさらされ、その過酷な経験から自衛官がPTSDになっている可能性がある。
しかし、政府は、自衛官の自殺の原因について調べていない。
特に政府が、イラク戦争への自衛隊派遣の正当性、イラク戦争自体の正当性をきちんと検証していない点を指摘し、安倍首相が、武力行使が引き起こす結果に一切言及せず、闇雲に集団的自衛権行使を進めようとしている点を批判しました。

3 柳澤協二氏の講演

柳澤協二氏からは、「安倍政権の安保政策/何を目指すのか/日本のためになるのか」と題する講演がありました。
柳澤氏は、内閣官房副長官補として、自衛隊イラク派遣を統括する立場にありましたが、憲法の歯止めを無視した政府の暴走を止めたいという思いから、本集会に参加されました。柳澤氏からは、次のようなお話しがありました。

・なぜ今「集団的自衛権」なのか。安倍首相の話は、国際情勢とは関係なく展開されているため、矛盾に満ちている。日米同盟を「血の同盟」にし、日米対等の関係を作らなければならないという個人的な思いだけで動いているのではないか。

・集団的自衛権行使に歯止めはない。遠方でも日本の安全に影響が及ぶことは考えられる以上、地理的な限定はできない。
また、日本はイラク戦争の際、当事国でない以上軽々に意見は言えないとのことでアメリカの武力行使に賛成しており、今後もアメリカが違法な戦争をするはずがないという前提で事にあたるならば、アメリカからの協力要請を断ることはできないだろう。

・日本のあるべき国際貢献の姿は、他国の戦闘行為に加担することではなく、高度な技術を教え、人材を育て、マネジメント能力を発揮することである。
あくまで政府は、戦争を回避するために世論を沈静化する役目を果たすべきであり、積極的平和主義の本来は、日本が国際秩序を積極的に守る立場に立つことであると語りました。

4対談・質疑応答

後半の対談の中で、柳澤氏が半田氏に、実際のところ自衛官はこの集団的自衛権行使容認に向けた状況をどう思っているのか尋ねました。
半田氏からは、自衛官は、相手から武力攻撃されないと反撃はできないと教え込まれている。
たとえば尖閣諸島に誰かが忍び込んだ場合、相手方が武力を使っていなくてもこちらは使っていいのか、そんなことが許されるのか、と戸惑っている状況にある、という話がありました。

また、平和を守るために自分にできることは何か、という会場からの質問に対し、柳澤氏は、日本の平和・安全は、政府だけでなく国民一人一人が考えるべきこと。
個々人が、その人格に基づいて平和を語り、自分の愛する者が死ぬことは嫌だと子や孫の世代に伝えることが大切だと語りました。
半田氏は、選挙を通して意見表明すること、国会前のデモに参加して声をあげる等、世論の力で政府の暴走を止めることが重要と回答しました。

最後まで参加者の熱気に包まれたまま、閉会となりました。

5予期せぬ参加人数

通常、憲法と人権を考える市民のつどいの参加者は概ね200~300人です。
特に今回のテーマは、日頃聞き慣れない「集団的自衛権」であって、どれだけの市民が関心を持っているか疑問であったこともあり、主催者側で当初用意していた資料は350部でした。
しかし、当日蓋を開けてみれば、用意していた資料部数をはるかに超える600人以上の参加がありました。
会場の埼玉会館小ホールの席数は500席であったため、場内で立ち見の人々の他、場外のモニターで見る人々が出る状況でした。
席につくことができなくとも、立ち去ることなく講演に聞き入っている参加者を見て、このテーマに対する国民の関心の高さ、危機感の高まりを実感しました。

6集会後の感想

集会後、半田氏からは「あれだけの人々の真剣な眼差しを受けたのは初めてで緊張した。なんとかなるかも、と勇気づけられた。」との感想があり、柳澤氏からは「埼玉の盛り上がりはすごい。
若い人たちに考える引き出しを作ってもらいたい。勉強会の企画等があれば協力する。」との言葉がありました。

集会の参加者が、それぞれ自分の考えに自信を持ち、共に歩もうという連帯感が生まれた集会となりました。
今回の市民集会で味わった熱気が、集会に携わった会員にとっても励みになったことは間違いなく、今後も市民の声を大切に、活動を拡げ、立憲主義に反する政府の暴走を止めよう、と会員同士決意を新たにしました。

7 今後の活動に向けて

今回、いつになく大勢の市民の参加があった理由は、テーマへの関心の高さ、講演者の顔ぶれに加え、弁護士会と市民団体とが事前に連携を図ったことにあります。

この集会を開催するまでに、弁護士会は、特定秘密保護法に反対する市民団体との懇談の場を設ける等、市民団体と会をつなぐ活動を行いました。
それらの活動が、当日の多くの市民の参加につながったと思われます。
弁護士会には弁護士会ならではの連携を作ることのできる可能性があり、今後、弁護士会が、集会の他、パレード、街頭宣伝等外部へ発信するにあたり、どこまで市民と協力できるか、会内で議論を重ねることも必要かと思います。

集会後、6月9日には、浦和で集団的自衛権に反対するパレードを行いました。約560人もの参加がありました。
7月31日には、浦和の埼玉会館大ホールで、集団的自衛権をテーマとする1300人規模の集会を開きます。

今後の弁護士会の活動に、一人でも多くの会員の皆様にご参加頂ければと思います。

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