【日弁連】雇用に関する戦略特区構想に反対する会長声明

2013年10月3日、日弁連が「雇用に関する戦略特区構想に反対する会長声明」を公表しました。

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本年9月20日に開催された産業競争力会議課題別会合において、国家戦略特区ワーキンググループは、解雇、労働時間、有期労働契約の規制を緩和した雇用に関する戦略特区構想を明らかにし、安倍首相が厚生労働省に、その具体化のための検討を指示した。

具体的には、特区内において、①労働契約法18条が規定する5年を超えた有期労働契約について事前に無期転換権を放棄することを認める、②契約締結時に解雇の要件・手続を契約条項で明確化し、契約条項が裁判規範となることを法定する、③一定の要件を満たす労働者が希望する場合に、労働時間・休日・深夜労働の規制の適用除外とすることを認めるというものである。

当連合会は、2013年7月18日付け「『日本再興戦略』に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書」を公表し、「すべての労働者について、同一価値労働同一賃金原則を実現し、解雇に関する現行のルールを堅持すべきこと」「労働時間法制に関しては、労働者の生活と健康を維持するため、安易な規制緩和を行わないこと」等を求めたところであり、この趣旨は全ての労働者に当てはまるものである。特区を設けて、その特区内において労働者保護のための規制を緩和することは問題である。

労働契約法16条では、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用した者として無効とする」と規定している。この条文は、民法1条3項の権利濫用の規定をもとに判例法理として積み重ねられてきた解雇権濫用法理を条文として規定したものである。雇用に関する戦略特区構想においては、労働契約法16条を明確化する特例規定として、「特区内で定めるガイドラインに適合する契約条項に基づく解雇は有効となる」ことを規定し、この規定が裁判所の判断を拘束することを想定している。具体的には、雇用に関する戦略特区において、労働契約に規定した解雇事由に該当する事実があり、使用者が労働者を解雇した場合、仮に労働者が解雇無効の裁判を起こしたとしても、裁判所は、規定した解雇事由がガイドラインに適合するか否かと解雇事由の有無を形式的に判断し、解雇有効との判断を下すことを想定することになる。もし、このような裁判が行われるとしたら、雇用に関する戦略特区においては、解雇の無効を訴えることが困難となり、労働者の雇用保障は大幅に後退する。

雇用に対する規制の中でも最も重要な規制の一つである解雇について今以上の緩和をする必要はなく、特区における新たな解雇ルールを創設すべきではない。

また、労働時間法制は、労働者の生命と健康を守る観点から労働基準法等によって罰則をもって規制されているものであり、長時間労働が解消されず、過労死や過労自殺が多発している我が国の労働現場の現状からみても、これを特区において緩和すべきではない。

そもそも、産業競争力会議は、企業経営者と研究者で構成されており、労働者を代表する者が全く含まれていない。このような偏った構成で雇用規制の緩和を議論すること自体が不公正であり、ILOが労働立法の根本原理として推奨している政府・労働者・使用者の三者構成主義にも反する。

以上述べた理由により、当連合会は、雇用に関する戦略特区における労働法制の緩和について反対するものである。

2013年(平成25年)10月3日
日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司

 

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