自由競争社会と人にやさしい共生社会(弁護士 伊須 慎一郎)

弁護士 伊須 慎一郎

12月16日に衆議院議員総選挙・都知事選挙が行われます。選挙の結果はこの原稿を書いている現時点では分かりませんが、自由競争・自己責任を声高に叫ぶ勢力(=強い者が弱い者に邪魔されるのはおかしいという考え方)が多くの議席を獲得することを危惧します。例えば、橋下徹氏は最低賃金制の廃止をうたっていますが、最低賃金の規制がなくなれば、使用者と労働者は対等でないこと(圧倒的に使用者が強いこと)、現在の経済情勢の下、十分な雇用がないことなどからすると、年収200万円以下のワーキングプアを大幅に下回る酷い低賃金労働が蔓延することは目に見えています。

ところで、労働者の権利や生活を守るはずの裁判官の中にも自由競争・自己責任・契約自由の原則に大きな比重を置き、弱者の立場を顧みない人が増えているように感じます。職業安定法44条、労基法6条に違反する『偽装請負』を軽微な派遣法違反にすぎないと免責した松下PDP事件最高裁判決を構成した裁判官(その後、同判決に追随する裁判官)は、東京電力福島第一原発で命を削りながら除染作業に関わっている請負労働者(そのほとんどが偽装請負)が、危険手当までピンハネされている実態をどう思っているのでしょうか? 私は、違法な偽装請負・多重請負を許容し、原発労働者を含めた多くの偽装請負労働者にだけ不利益を負担させるような裁判所の価値判断が社会に受け入れられるはずがないと信じています。

社会は混迷期に入っていますが、憲法価値を活かし「人にやさしい共生の社会」を目指して新しい1年が始まります。

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