労働契約法について【2008年7月31日】(弁護士 佐渡島 啓)

弁護士 佐渡島 啓

 今年3月1日より労働契約法が施行されました。この労契法とは,労働者と使用者との労働契約が合意により成立するという大原則を確認すると共に,雇用契約の最初から最後までに生じる様々な契約上の問題について,どのようなことがあれば,どうなるのかを規定した法律です。

 よく耳にする労働基準法は,最低限の労働条件を定め,これに反する労働契約を無効とするだけでなく,労働基準監督官の監督により使用者を指導したり,場合によっては刑事処分まで用意している法律で,労契法とは役割を異にします。

 労契法をどのような内容の法律にしていくかについては,数年前から厚生労働省内の研究会等で活発に議論されてきました。例えば,不当解雇であっても使用者が一定の金銭支払いをすることで復職でなく退職で解決する制度が使用者側から提案されたり,少数組合の交渉権を奪うと危惧された労使委員会の設置が検討されたりして,労働者側と使用者側で鋭く対立する論点も多くありました。そのため,最終的に国会で成立したのはわずか19条,しかもその多くはこれまで積み上げられてきた判例法理を法律に引き直しただけというものにとどまりました。

 したがって,労契法が出来たことで労働現場がこれまでと劇的に変わるということはありません。

 しかし,例えば「労働契約は,労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結」する(3条3項)という規定により,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が労働契約の一般原則だということが確認されたり,「使用者は・・・労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする」(5条)として過重労働等の歯止めに生かせる明文が規定されるなど,使用者からの理不尽な要求に対抗できる条文も盛り込まれています。

 また,有期雇用契約についても「使用者は,・・・必要以上に短い期間を定めることにより,その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」(17条2項)とされ,短期雇用の濫用防止に使える規定が置かれました。

まだまだ不十分な部分の多い労契法ですが,最大限に活用していくと共に,今後の改正に注視していく必要があります。

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