三郷生活保護裁判さいたま地裁判決に関する弁護団声明

弁護団声明

本日、さいたま地方裁判所は、被告三郷市が、原告ら世帯を生活保護の窓口で繰り返し門前払いした上、弁護士の同行により、ようやく生活保護が開始になった後も、生活保護の利用を妨げる行為に出た事実を認定し、原告らの訴えをほぼ全面的に認め、被告三郷市に対し、537万円余りの損害賠償の支払を命じる判決を言い渡した。

本件は、世帯主が白血病に倒れ、生活に困窮した原告ら家族が、幾度となく生活保護の利用を求めて三郷市役所を訪れたが,三郷市が、これを申請と認めずに1年以上生活保護の利用を拒否し続けた上,保護開始決定後わずか3か月で,原告らを転居させて保護を打ち切ったというものである。この間、前途を悲観した原告ら家族は、一家心中の瀬戸際まで追い込まれた。

本件訴訟の開始にあたり、世帯主の妻は、原告の1人として次のような意見を述べた。「夫は白血病で、今も命に関わる重い病気と闘っています。そんな状態の夫が、この裁判の原告になることを決意したのは、生活保護の仕事をしている役所の方々が、この裁判を通して、苦しんでいる人たちに救いの手をさしのべる優しさを取り戻して欲しい、これからは、私たちと同じような辛い目に遭わせないで欲しい、と思っているからです。…是非、夫が生きている間に、…私たちの訴えを認めて下さい。」。残念ながら、世帯主は判決を待つことなく白血病で早世したが、この願いが本件訴訟の出発点であり、原告らが、生活保護に関する偏見が社会に蔓延している状況の中で、勇気を奮い起こして、この裁判の原告となることを決意した理由である。

本件のように、生活保護の窓口で申請さえ受け付けない、あるいは、生活保護開始後に理由なく保護から締め出すという違法な運用は、全国各地で横行している。本件は氷山の一角である。昨年1月には、札幌市白石区で、40代の姉妹が、3回に渡り生活保護の申請させてもらえず餓死し、また、2007年の本件訴訟提起の直前には、北九州市で生活保護を打ち切られた52歳の男性が「法律はかざりか」と書き残して餓死するなど、生活保護の利用から排除された結果、餓死・孤立死するという事件が後を絶たない状況にある。

本判決は、このように、各地に違法な運用が広がっている中で、①生活保護の申請を受ける窓口の運用について、身内からの援助を求めなければ生活保護を受けることができないなどと誤解を与える説明をして申請を妨げることは申請権を侵害する行為であると断じ、②生活保護開始後に都内への転居を勧めた上で、転居先の区に原告らの転居を通知せず、また、区内で生活保護の相談に行ってはいけないと述べたことは原告らの生活保護を受ける権利を侵害するものであるとして、生活保護行政の過ちを厳しく指摘したものであり、各地の生活保護行政のあり方に警鐘を鳴らし、誤った運用の是正につながるものとして、高く評価する。

当弁護団は、本判決を受けて、被告三郷市に対し、原告らに謝罪し、控訴権を放棄して判決に従い、原告らの被った損害を直ちに賠償するよう求めるとともに、以下の再発防止のための措置を講じるよう求める。
1 生活保護の相談にあたっては、生活保護制度について十分な説明を行い、保護申請意思を確認すること
2 申請意思が確認された市民には、速やかに申請書を渡すとともに、申請手続の助言を行うこと
3 申請意思の有無については、面接記録票にチェック項目を設けるなどの方法により確実に記録すること
4 申請書は、福祉事務所カウンターなどの市民が自由に手に取ることができる場所に常備すること

2013年2月20日

三郷生活保護国家賠償請求訴訟原告弁護団
団 長  中 山 福 二

image_printこのページを印刷
シェアをお願いいたします。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次