原発避難者の被害実態を直視し、いわゆる中間指針を見直し、慰謝料額の大幅な底上げを求める弁護団声明

原発避難者の被害実態を直視し、いわゆる中間指針を見直し、慰謝料額の大幅な底上げを求める弁護団声明

 

震災1年後の本年3月に、福島県内から埼玉県内に避難中の1658世帯を対象に、避難生活の実態、避難者の心身の状況等を把握するため、大規模アンケートが実施された。その分析の結果、避難者の67.3%がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性が高く、75%以上の者が「高い」心理的ストレス反応を示していることが判明し、原発避難者が甚大な精神的苦痛を受けていることが明らかとなった。

ところで、原子力損害賠償紛争審査会が策定したいわゆる中間指針は、避難に伴う精神的損害について、「本件は負傷を伴う精神的損害ではないことを勘案しつつ、自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4200円。月額換算12万6000円)を参考にした上」で、事故発生から6か月間については「一人当たり月額10万円を目安とするのが合理的であると判断した。」としている。中間指針策定段階の議論(平成23年6月9日開催の第7回議事録)においても、「自賠責で想定している慰謝料は、けがをして、自由に動けないという状態で入院している、身体的な障害を伴う場合の慰謝料」であり、「それと比べると、たとえ不自由な生活で避難しているとはいえ、行動自体は一応は自由であるという場合の精神的苦痛とは同じではない」とし、原発事故からの避難の場合は、交通事故のいわゆる自賠責基準より低い基準になるとの考え方が示されている。

しかしながら、交通事故の自賠責保険は、最低限の賠償を迅速に行えるようにするためのいわば仮払い的性格のものであり、その基準は最低限のものであるだけでなく、「けがをして、自由に動けないという状態で入院している、身体的な障害を伴う場合」と原発により避難を強いられ「たとえ不自由な生活で避難しているとはいえ、行動自体は一応は自由であるという場合」とを比較して、類型的に、前者より後者の精神的苦痛の方が軽いという判断は、残念ながら、避難者の置かれた現状、被害実態等からかけ離れたものであるといわざるを得ない。

中間指針が、膨大な数の被害者に対する賠償を迅速に進めるため、未だ被害実態が十分に把握されていない2011年(平成23年)8月に公表されたものであることから、実態が反映されていないことには無理からぬ面もある。しかし、今回の大規模調査の結果を、過去の様々な自然災害及び交通事故を含む人為災害と比較した結果、原発避難者の受けている精神的苦痛が甚大であり、交通事故で入院した場合と比較して苦痛が軽いということは決してなく、過去のどの災害よりも高いレベルの精神的苦痛であることが明らかになっている。このことは、原発避難者が、原発事故により、住居、仕事、コミュニティ、それらと密接に関わる生き甲斐など様々なものを喪失し、まさに生活を根こそぎ破壊されたという過酷な現実と合致している。

当弁護団は、中間指針策定段階とは異なり、現時点においては、原発避難者が上記のような甚大な精神的苦痛を被っていることが確認されていることから、①原子力損害賠償紛争審査会に対し、実態から乖離して低額過ぎる中間指針を見直して慰謝料水準を大幅に底上げすることを求め、また、②紛争解決センターに対し、個々の被害者の被害実態に真摯に向き合い、事件の審理を通じ、慰謝料水準を大幅に増額することを求める。

 

2012年(平成24年)6月13日

双葉町弁護団

団長 荒木 貢

団長 海老原夕美

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